某コンビニでの話。
私はそのコンビニでアルバイトをしていた。
コンビニには、いろいろなタイプの人が来る。
サラリーマン、OL、学生、主婦、労働者風の人。
なかでもいちばんヤバかったのが、
いわゆる ″その筋系の人″。(ヤ○ザ)
それ系の人は、何人か来ていた。
基本的には、普通の対応をしていれば
なんてことはない。
しかしながら、威圧感が一般人のものとは
比較にならない。
その中でもバリバリ(恐らく組長クラス)の男がいた。
頭はツルツルのスキンヘッド。でっぷりしているが、
背は小さく(160cmくらい)、いつもデカいネックレスをしていた。
そのオッさんがくると、店全体の空気が一変した。店員も含め、急にピリつくのである。
ヤーさんのお目当ては「いちごミルク」。
店で調理販売していたアイスクリームだ。
それのみを買いに、定期的にやって来る。
まず店の前に、黒塗りベンツを停車する。
ゆっくりとドアを開け、巨体を揺らしながら
店内に入ってくる。
他の商品には興味を示さず、いきなりレジに向かって来る。
そして「いちごミルク一つ。」
そう言って、ひとさし指を1と立てる。
表情はヤ○ザそのもので、目線は私をとらえて
離さない。
私がいちごミルクを作っている間は、
レジ前に仁王立ち。
店内のすべてが、そのヤ○ザを中心に成り立っている。
いちごミルクが待ちきれないのか、いつも足踏みしていた。
男は200円を払い、いちごミルクを受け取る。
そしてニコリともせず、
黒塗りベンツに乗り込んでいく。
あるとき、いつものようにいちごミルクを
買いにやって来た。
黒塗りベンツを路上駐車し、とてつもない
オーラを醸しやってくるヤ○ザ。
レジに来ると、「いちごミルク、1つ。」
と言って指で1を作ってきた。
「少々お待ち下さい。」
私はそう言って、ソフトクリーム機へ向かった。
そして誠心誠意、真心をこめていちごミルクを
作った。
おっさんに渡すと、なぜか表情が曇った。
おそるおそる様子を伺っていると、
突然おやじは言った。
「足りない。」
一瞬、何を言っているか分からなかった。
威圧感に圧倒され、私はビビっていた。
しかし、いちごミルクを見て気がついた。
確かに1巻き足らない。
(アイスクリームの形状はご存知でしょうか?
グルグル巻きのあれが足らなかった。)
マニュアルでは4巻きで作成であった。
うずまきが足らないと言うことは、覚悟が足らなかったということだ。
「すみません、すぐに作り直します。」
私は急いで新しいものを作り、おやじへ渡した。
「お待たせして、すみませんでした。」
おやじは何も言わず、本物の顔でいちごミルクを
受け取った。
そしてそのまま、黒塗りベンツへと向かっていった。
私はそれとなく、ベンツの中の様子を伺った。
本物はベンツの中で、いちごミルクにがっついている。
すると、いちごミルクに向かっていた男の目線が
ゆっくりと私のほうへ流れてきた。
私と男の目線は、完全にバッティングした。
頭の中で、男の声が聞こえる。
「ヤ○ザがいちごミルク食っちゃ
いけねーのかよ?」
本物はそのまま、ベンツを発進させ
去っていった。